晴れのち曇り ときどき溺愛
 下坂さんは私を見て井上さんと同じように優しい微笑みを向けてくる。昨日の厳しさはどこに行ったのかと思うくらいに表情は穏やかだった。

『ずっと会いたかった』

 その微笑みを忘れようと何度も昨日の夜に寝返りを打ったのが無駄だったと思うくらいに胸の奥がキュッとする。


「見城から聞いたとは思うが面倒な仕事を頼んですまない。でも、大事な仕事だからよろしく頼む。それと、今日の十九時から諸住さんの歓迎会をする。店は後からパソコンで送っておくので確認しておいて」

「はい。わかりました。あ、あの、おはようございます」

「ああ。おはよう」


 与えられた仕事が大変だと分かっているのか、横に座る井上さんは『分からないことがあれば一人で悩まず聞いて』と言ってくれるし、斉藤さんも『俺も少しなら教えれるから』と言ってくれる。見城さんも自分の仕事が忙しいのに『分かんないところがあったら聞いて』と言ってくれた。

 私はシステム課に受け入れられていた。モヤモヤはどこかに行ってしまった。


 見城さんから貰った資料は新しいものについてはパソコンの中のどこのファイルに入っているかを鉛筆書きで書いてあるし、資料室の場所も走り書きされてある。助かったと思う反面、時間が過ぎていくにしたがって三日で終わるのかと心配になった。

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