魅惑への助走
 「ドリンクは?」


 「あ、アイスティーにしようかな」


 「俺もアイスティー。食前でいい?」


 「うん。喉が渇いたから、食前でお願い」


 「了解」


 そして上杉くんが店員を呼んで、オーダーをしてくれた。


 上杉くんの声が響く。


 この優しい声に包まれていたいと、電話したあの夜から密かに願うようになっていた。


 疲れた私を癒すのは、アルコールでもなく、ニコチンでもなく……この声。


 そんな気がしていた。


 「じゃ、メニュー表片付けるね」


 「ありがとう。何から何まで」


 テーブルの脇にメニュー表を片付けるため、上杉くんは腕を伸ばした。


 長い腕。


 そんな所にも胸がときめいてしまう。


 あの声で囁かれながら、この長い腕でぎゅっと抱きしめられでもしたら……どんなに心地よいだろうかなどと考えてしまう。


 最近の私、どこかおかしい。
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