魅惑への助走
 パスタやピザを交互に味わいながら、まずは芸能人の話題から始まった。


 とあるロックミュージシャンが、俳優としての活動をスタートさせると。


 「絶対向いてないと思うんだよね。ロックでカッコいいイメージが崩れそう」


 力説する上杉くん。


 私は内心、やってみれば案外向いているかもしれないなどと思ったりもしたのだけど。


 この場では上杉くんに同調し、頷いておいた。


 「向いてないといえば……。俺もなのかな、って思うことがある」


 「えっ、どういうこと?」


 「知ってのとおり、司法試験二年連続落ちてさ……。二年間ずっと頑張ってきたはずなんだけどね。学力不足もあるんだろうけど、それ以上に向いていないのかな、って」


 「……」


 (その後の日本は弁護士を増やそうって方針になり、司法試験の合格者数はこの当時より多くなったのだけど、上杉くんが受験していた時代は、まだまだ難関だった頃)


 司法試験浪人が当たり前な時代とはいえ。


 二度にわたる不合格は、上杉くんの自信を大きく損なうのに十分だった。
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