魅惑への助走
 「……私と一緒でいいの?」


 「一緒に行ってくれるなら嬉しいな。だってさ、男が一人で花火見たり縁日巡っていたら、変な目で見られるよね? これが男二人だったら、今度は同性愛疑惑だし」


 「確かに」


 女の子同士なら別に何ともないのに、男の子の場合はそうはいかない。


 カップル単位じゃないと行動しにくいものだと、つくづく感じる。


 「じゃ、細かい時間調整などは後でメールするから」


 「またね……」


 駅の前で手を振って別れる。


 ……上杉くんは、紳士だ。


 私との友達としての関係を決して崩さないし、崩れる気配も見せない。


 このまま仲のよい異性の友達としての関係が、永久に続いていきそうな気がする。


 私が何らかのアクションを起こさない限りは、きっと……。


 それはこの上なく心地の良いものだけど、本当に永遠でいられるのか考える。


 もしも今後、上杉くんに彼女ができたら?


 彼女を差し置いて、私を優先することなど決してできなくなる。


 私は静かに身を引かねばならない日が訪れる。


 ……なんか悔しい。
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