魅惑への助走
 「へえ……。浴衣姿も似合うじゃん」


 片桐は上から下まで、舐めるように視線を這わせる。


 さっさとこの場を逃れたいのだけど、


 「片桐さん、この子も共演相手ですか」


 連れの取り巻きっぽい男が尋ねる。


 顔は知らないものの、きっとこちらも男優だろう。


 「違う違う。ほら、SWEET LOVEの」


 「ああ、あの……。片桐さんが今モーション掛けてる、」


 そこまで言いかけて取り巻きは、慌てて口を閉じた。


 「……明美ちゃん、一人?」


 「いえ、一人ではないんですが」


 上杉くんと一緒のところをあまり見られたくないのもあったけれど、一人だと答えるとまた隙を作ってしまうので、誰かと一緒であるとアピールしたかったのだけど。


 「もしかして彼氏にすっぽかし食らったのかな? ヒマなら俺たちと遊ぼうよ」


 当然、こういう流れになる。


 「せっかくのお誘いですが、連れがおりますので」


 「連れ? 俺らも男三人だから、女の子なら合流して遊ぼうよ」


 「……」
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