魅惑への助走
 「もう、上杉くん……」


 昔の彼女に再会して、舞い上がってしまいどこかに行っちゃったのかな。


 まさか上杉君が、そんなことしないとは思うけど。


 だけど暗くなってきて、さっきまでとは客層が変わってきたお祭り会場に、一人取り残された私の心細さは予想以上で。


 とりあえず辺りがよく見渡せる場所に、移動することにした。


 「気をつけてよ!」


 「す、すみません」


 振り向きざまに、ヤンキーっぽい女と腕がぶつかった。


 向こうは先を急いでいたようで、それ以上は因縁付けられなかったけれど。


 夜になって、ちょっぴりガラの悪い連中も増えてきた。


 上杉くん、ほんとどこ行っちゃったんだろう。


 とりあえず人ごみをかき分け、反対側にある大木の脇にまで移動しようと試みた。


 と、その時。


 (え……)


 人ごみの向こうから現れた男数名を目にして、私は硬直した。


 見つかりたくはないと思ったものの、すでに手遅れで。


 「あれっ。明美ちゃんじゃない」


 (片桐……!)


 あまり会いたくない奴に遭遇してしまった。
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