魅惑への助走
 「いえほんとに私、これから都合が」


 「いいからいいから、行こう行こう」


 言い訳になど聞く耳持たず、片桐は私の肩を強引に掴んで、花火会場に連れて行こうとする。


 「おっ、片桐さん。強引っすね」


 取り巻きたちは止めるどころか、むしろ賞賛している。


 ゲットしようとしている女がたくさんいるって話を連中に常日頃披露しており、それらターゲットの一人が私であるともおそらく。


 「ほんと困ります。私、」


 「いいじゃん。楽しくやろうよ」


 有無を言わさぬアプローチ。


 上杉くんとなら、どんなに時間をかけても越えられない一線を、この人ならばいともたやすく越えてしまうんだろうな。


 そんなことをふと考えてみたり。


 (そういえば上杉くん、ほんとどこ行っちゃったんだろう)


 まだ姿が見えない。


 そして私の肩を抱くのは、上杉くんとは全く異なる、大きくて力強い手。
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