魅惑への助走
***


 いつの間にか二人ともまどろんでいたようで、はっと気が付くと私は上杉くんの傍らで、寄り添うように眠っていた。


 辺りはもう明るい。


 すでに朝日が、東の空から顔を覗かせているようだ。


 夕べは夢中で……。


 遠慮がちな上杉くんに代わり、私がリードする形で……。


 「上杉くん」


 呼びかけても反応がない。


 初めての緊張と、過去に味わったことのないような快感とで、疲れ果てて眠ってしまったよう。


 「よかった……」


 眠ったままの上杉くんに抱きついた。


 「あ、武田さん。おはよう」


 その刺激で目を覚ましてしまう。


 「私はもう、武田さんじゃない」


 「えっ? あ、そうだ。明美」


 「そう。もう一度やり直し」


 「おはよう。……明美」


 耳元から甘い声が注ぎ込まれる。


 また体の奥から熱くなっていく。


 「……泣いているの?」


 「えっ」


 上杉くんに指摘されて驚いた。


 私はどういうわけか泣いていたようで。
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