魅惑への助走
 しばらくの間、シーツに包まってじゃれ合っていた。


 ふざけ合い触れ合ううちに昨夜の疲れも忘れ、唇を重ね合い、もう一度繋がってしまいたくなる。


 「上杉くんの初めての女になれて、本当によかった」


 心からそう感じて、再び抱きついた。


 「お世辞でもありがとう」


 「ううんお世辞じゃない。これから上杉くんが何十人、何百人の女を抱いても、私が初めての相手だって事実は未来永劫消えない。上杉くんの歴史に残ることができたって意味でも、本当に嬉しい」


 胸の中でそう告げると、


 「何十人、何百人?」


 上杉くんは笑い出した。


 「百人斬りとか、あり得ないでしょ。明美が俺を売春宿に売り飛ばしたりとか、そういうことでもない限りは」


 あり得ないと一笑に伏す。


 そしてそのまま、互いの体の熱が再び高まりあったのを悟り。


 「昨日気が付いたら寝てたから……まだ足りなかったよね」


 昨日の続きをせがんだ。


 「明美はおねだり屋さんだね」


 「上杉くんが悪いの。私をこんなに感じさせるから……」


 一線を越えた途端、今まで抑えていたものが一気に決壊したようで。


 時間なんて気にせず、本能のままに求め合っていた。
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