魅惑への助走
***


 「お疲れさま」


 帰り際、オフィスに不意の来客があって。


 お茶の準備をしたり片付けたりする都合で、退社が30分ほどずれ込んでしまった。


 隙を見て上杉くんにメールをして、30分待ち合わせ時間を後にしてもらったら。


 その間に、二人でする予定だった買い物を終わらせてくれていたようで、買い物袋を手にしていた。


 「ごめんね。全部任せちゃって」


 「いいよ。作るのは俺だから」


 部屋に上がるようになった間柄となったため、上杉くんが夕食を作ってくれるという。


 ずっと外食ばかりだったから、せっかくだから食事を作ろうって話になって。


 私はほとんど料理はしないと告げたところ、上杉くんが作ってくれると言い出した。


 食事代節約のため、時間のある時に食材を買い込んで、作り置きをして冷凍庫に保存しているとのこと。


 だから料理は慣れているそうだ。


 「本当にいいの?」


 「うん。俺の作った料理を、明美に食べてもらいたいから」


 「嬉しい」


 どうも男女逆転しているような私たち。
< 214 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop