魅惑への助走
 ……。


 「……明美? もしかして寝ちゃった?」


 「!」


 シーツの上から肩に触れられたようで、びくっとした。


 いつの間にかまどろんでいたらしい。


 「携帯、開いたまま床に落ちてるよ」


 「あ」


 そうだ、いきなりの片桐からのメールを見ているうちに。


 嫌で目をつぶっていたら、いつの間にか寝ちゃっていたようだ。


 急いで拾って、メール画面を消す。


 内容は大したものでもない、今度の撮影よろしくとか楽しみだとか。


 あとは土曜日のお祭りの際は、一夜を共にできなくて残念だとか。


 こんなメール上杉くんに見られたら、大変なことになる。


 「明美、誰か男の人からメールが」


 メールを受信した際、やはり差出人・片桐の名前をちらっと見られたようだ。


 「気になる?」


 「そりゃ当たり前……」


 話題を逸らすために、上杉くんに腕を伸ばす。


 「さ、先に冷やし中華食べない? せっかく途中まで、」


 「後にして。一日離れていたらもう私、充電切れ」


 すでに一つになれる瞬間を待ちわびている。


 「一日じゃなくて、まだ半日だよ」


 上杉くんはようやく、キッチンに戻らずここに留まることにしてくれた。


 ベッドに座り、私をきつく抱き返す。
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