魅惑への助走
 「明美とこうなるまでは、別に何とも思っていなかったのに」


 濡れた髪に優しく触れながら、耳元で囁いた。


 「一度知ってしまったら、もう昔の自分には戻れない」


 それは私も同じ。


 今までは強く望まれたら、それに応える形で何人かの男たちとこういうことをしてきた。


 ……だけど自分から欲するのは、今回が初めて。


 今まで味わったことのない、独占欲にも似た執着心。


 もっと早くこうなっていればよかったと、ほんと悔やまれる。


 と同時に、今までこんな気持ちを味わうことがなかった分、今は強く深く繋がっていたいと願う。


 「そうだ、肝心なことを忘れてた」


 愛撫の手を止めた私を、上杉くんは不思議そうに見つめた。


 「肝心なことって?」


 「私たち、まだ付き合ってるわけじゃないよね?」
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