魅惑への助走
 「貴重品は、そこのロッカーに入れておいて。百円投入するけど、使用後戻ってくるから」


 「はい」


 「わが社のスタッフの人たちを疑っているわけじゃないけれど、いろんな人が出入りするから、万が一ってことがあるんだよね」


 榊原先輩に言われるがまま、持参したバッグはロッカーの中に入れた。


 収録中に鳴り出したら困るので、携帯電話も電源切って一まとめに。


 「あの……、先輩」


 「何?」


 「いきなり私が付いていっても、本当に大丈夫なんでしょうか」


 「心配しないで。私の連れだったら問題ないから」


 先輩はAVの仕事を始めて、まだそんなに年数は重ねてないけれど。


 最近は新参者ばかりの現場が多く、その中では経験者という立場になるため、場を仕切ったりできるポジションのようだ。


 「アシスタントディレクター。略してADかな」


 監督を補佐する立場らしい。


 ロッカーを閉めて百円玉を投入、鍵をかけてそのまま抜き取った。
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