魅惑への助走
 「榊原さん。その子は?」


 撮影用カメラをいじっている女性に話しかけられた。


 撮影スタジオに足を踏み入れた。


 AVの撮影現場って、乱雑に散らかっているイメージだったけど。


 予想よりずっと、整理整頓整頓されている。


 よく見ると主要なスタッフには、女性が多いようだ。


 下働きをしているのが、下僕のような男たち。


 「この子は、武田明美ちゃん。私の大学の文芸部の後輩なの。で、明美ちゃん。こちらのカメラいじってるのが樺澤(かばさわ)さん。そちらで照明機材の手入れしているのが榎木(えのき)さん」


 「は、はじめまして」


 登場人物全員が、二十代前半と推測される。


 私とそんな、年齢も変わらないはずなのに。


 仕事を持って活躍している人たちは、みんな活き活きと輝いて見えた。


 「はじめまして。よろしくね」


 樺澤さんと榎木さんも、私に挨拶した。


 「武田さんも文芸部ってことは、小説とか書いてるのかな?」


 そして尋ねられた。


 「はい。まだ修行中の身ですが……」


 「だったら榊原さんの弟子として、うちを手伝ってくれるとか? だから見学に来てくれたのかな?」
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