魅惑への助走
 「だけど、限界はあるよね」


 榊原先輩は食後のコーヒーを飲み終え、カップを皿に置きながらため息をついた。


 「限界、ですか」


 「所詮はAV。テレビドラマほどの予算や製作期間は与えられないでしょ? 限られた予算と時間で製作可能なものとなれば、結局のところ妥協に次ぐ妥協が必要」


 「先輩は大学の文芸部時代は、時代小説を多く執筆なさってましたよね」


 「うん。時代劇AVなんてやってみたいけど、予算を考えると無理無理」


 お城の、大奥のような場所で、着物の女性の帯をくるくる剥ぎ取る……なんて、男性諸氏は憧れるシチュエーションだとは思うけど。


 着物にカツラ、大道具小道具などのセット。


 予算ははるかにオーバーするだろう。


 現状では実現不可能、かな。


 「先輩は今はもう、投稿はなさってないんですよね」


 元来は小説の投稿がメインで、AVのお仕事は生活のために始めたはずが。


 いつの間にか本業と副業が逆転していたのは、私も同じだった。
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