魅惑への助走
 もしかして、逃げた方がいいのかもしれない。


 このままここにいたら、訳の分からないことに巻き込まれそうな気がしてきた。


 先輩には申し訳ないけれど、ここは私のいるべき世界ではないはず。


 そう打ち明けたら監禁されかねない雰囲気だったので。


 先輩がスタッフさんたちと打ち合わせをしている隙に、こっそりドアのほうへ……。


 逃げる気満々だった。


 その前に控え室に戻って、ロッカーからバッグを取り出さなければ。


 そんなことを考えながら、ドアの元へと近づいた時。


 「あっ」


 「おっと」


 急にドアが開いて、男性が中へと入ってきた。


 二十代半ばくらいの、爽やかな感じの男性。


 この人もスタッフなのかな。


 「すみません」


 目を合わせないでそのまま、ドアから出て行こうとしたところ、


 「君が椿(つばき)ちゃんだね」


 いきなり男性に話しかけられた。


 「え?」


 違いますと答える間もなく、次のセリフが!


 「パッケージの写真よりも、現物のほうが断然綺麗だね。今日は最高のシーンを撮ろうね」
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