魅惑への助走
 「で、弟子?」


 まだ出会ったばかりなので、どちらが樺澤さんでどちらが榎木さんかちょっと混乱した。


 茶髪で短い髪のほうが樺澤さんで、長い髪をおだんごにしているのが榎木さん?


 今私に弟子と言ったのは、樺澤さんのほう。


 どうやら榊原さんが私をバイト要員として連れて来たのだと、誤解されているようだ。


 「いえいえ、弟子なんてそんな」


 慌てて否定したのだけど、


 「実はさっき偶然再会したんだけど、フリーター生活中だって言うから、私の仕事補佐してもらおうかなんて企んでるの」


 「えっ」


 榊原先輩の発言に仰天。


 私がAV用ストーリーを執筆!?


 「そ、そんなの聞いてません。私無理です。官能小説なんて書いたことないですし」


 慌てて両手を顔の前で振った。


 なのに先輩は、


 「私だって最初は初心者だったんだから。明美ちゃん、考えてみてよ」


 いくら同じ文芸部出身だからって。


 たまたま行きがけに再会したにすぎない私が、どうしてそんなことになっているのだろう?
< 31 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop