魅惑への助走
 ……。


 「それにしても予選会で八百長するなんて、初めて見たぞ」


 「だから、違いますって。偶然ですってば」


 同じビルで働いていながら、ほとんどが面識のない人たちばかりだったものの。


 この度ボウリング大会でぶっちぎりの優勝(ハンデのおかげだけど)してしまったために、私は一躍このビル中の有名人となってしまったようだ。


 偶然とはいえ予選会と本選のスコアが三倍以上違ったため、優勝のインパクトも大きく。


 「おたくの松平社長さんも女性用ハンデ要らないくらいに上手いけど、明美ちゃんも遜色ないね。来年も出場しなよ」


 ボウリング大会が続く限り、私の優勝は語り草となっていきそうな雰囲気だった。


 おかげさまで、当初はあまり知り合いもおらず心細い気持ちで参加した飲み会だったけれど。


 優勝のおかげですっかり周囲とも打ち解け、ボウリング大会も飲み会でも女性陣は少数派だったため、おじさまたちにちやほやされて、飲み会の主役といっても過言ではないくらいだった。
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