魅惑への助走
 「よ、用務員?」


 葛城さんはお腹を抱えて笑い出した。


 「あ、用務員って言い方は、学校みたいですね。オフィス内でしたら……清掃の人!?」


 「俺って、掃除のおじさん?」


 「はい。だって誰よりも早く出社してるっていうから……。ハズレですか?」


 「明美ちゃん、葛城さんが掃除のおじさんだって?」


 いつの間にか私たちの会話を周りで聞いていたおじさまたちが、口を挟んできた。


 「ははは。明美ちゃん。かなり酔ってるんじゃない?」


 「いえ。まだ酔うほどは飲んでないはずですが」


 実際まだ辺りにお酌をして回っていることのほうが多かったため、ほとんどビールにも口をつけていない。


 「だとしたら相当見る目ないなー。葛城さんがほんとに、掃除のおじさんに見える?」


 「いえ……。少なくともおじさんには見えないですが……」


 「明美ちゃんは葛城さんがどこで働いてるか、知らないみたいだね。『ミリオンページ』の代表取締役、社長さんだよ」


 「ミリオン?」


 「ほら、最上階の」


 最上階……。


 このビルの最上階は、IT関連企業がワンフロア所有していて、そこの社長は若いながらもやり手でイケメンだって噂で……。


 えーっ!?
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