魅惑への助走
 「す、すみません。知らなかったとはいえあれこれ失礼なことを」


 慌てて私は謝った。


 業績拡大中で注目されている企業の若社長に、「清掃のおじさん」だなんて。


 「いやいや。発想の着目点が意外性に富んでいて、楽しませてもらったよ。さすが、クリエイティヴな活動を生業(なりわい)としている子は違うね」


 AV製作の助手とは露骨に表現せず、「クリエイティヴな活動」と葛城さんはやんわりと言い表してくれた。


 こんなにセレブな俺を、掃除のおじさんだとは失礼な! と怒られたらどうしようかと思ったけど。


 葛城さんは余裕げな態度に終始。


 ……それから周りのおじさまたちが、私がSWEET LOVEのAV製作においてどんな作業に携わっているのかに関して、根掘り葉掘り尋ねてきた。


 「おたくの松平社長さんには畏れ多くて、なかなかアダルトな話はできないんだよね。でも明美ちゃんになら話しやすい」


 「社長には話しにくいですか?」


 「うん。松平さんは美人で、いかにもできる女って感じで。下手なこと口にしたらハイヒールで蹴られそう」


 「そうですかねー?」


 美人社長にハイヒールで踏みつけられる男。


 そんな姿を頭の中で思い浮かべると、また新作AVのネタなどをあれこれ考えてしまう一種の職業病。
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