魅惑への助走
 「これだけじゃ分からないよね。じゃ第二ヒント。俺はビル内で一番、朝早くから勤務している」


 「朝早く……?」


 二番目のヒントを与えられてから、まじまじと葛城さんを見つめる。


 第一印象は、良さそうなスーツを着ているなあ、と。


 上杉くんが就職活動用に準備している、量販店で半額セールで購入したサイズの合わないスーツとは質が全く違う。


 もしかしてオーダーメイド?


 葛城さんは、年の頃は35くらい。


 柔らかそうな綺麗な髪に、ゆったりとしたウエーブがかかっていて……。


 (外見にうっとりする前に、クイズの答え答え)


 まずは謎解きに集中。


 私もロケなどの都合で、日によっては朝早くからビルに入ることがある。


 そのような際、私より先に来ている人は……?


 「……」


 日の出の頃、眠い目をこすりながらオフィスに出向いた際。


 まだ正面玄関は施錠されているため、関係者限定の裏口からビルに入る。


 その時遭遇するのは誰?


 「あっ!」


 裏口からビルに入り、窓口から声をかけて、職場内に入ってもいいか確認を取る。


 その相手は?


 「分かった!」


 「ほんと?」


 「はい! 葛城さんは用務員さんだ!」


 私の回答を聞いた途端、葛城さんは口に含んでいたビールを吹き出した。
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