魅惑への助走
 「ケチって回線をあまり増やしてないと想像されるな。……どうだろう? いくら毎月の支払いが安くても、そんないい加減な保険屋解約しちゃったら?」


 えっ、無保険で運転するのはちょっと」


 「まさか。俺の同期で、保険屋になった奴がいるんだ。そいつ親切だし、俺の仲介だったらサービスも付けてくれるよ。今の事故の話も、そのまま引き受けてもらえば万事無事解決」


 「でもそんな……」


 今日知り合ったばかりなのに。


 まだよく分からない相手に、そこまでしてもらうのは気が引けた。


 「気にしなくていいよ。俺からの優勝祝いだと思って。同じビル仲間のよしみでもいいし。そして……俺たちが出会った記念に」


 近々、その葛城さんの同期の保険屋さんに相談してもらうことにした。


 「よし。これで明美ちゃんの心配事は消えたね。今日からは楽しいこといっぱいになるよ」


 「……」



 保険の問題はそれで片付くとして。


 私の行く手には、様々な問題が山積みなのだ。


 職場の名前を公言しにくいのは、一朝一夕に解決できない問題のため仕方ないとして。


 今最も切実な問題は……。


 「浮かない表情だね。最初の話しから判断して、他にも悲惨なことが何かあるんじゃないの? よければ話してみて。相談に乗るよ」
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