魅惑への助走
 「でも……」


 さすがにためらいがあった。


 「……彼氏には言いにくいこともあるよね。ビル仲間、いや人生のちょっとだけ先輩な俺だったら、明美ちゃんも気軽に相談できるんじゃない?」


 彼氏。


 葛城さんの言葉に何気なく出てきたその一言が、私を突き動かした。


 「実はその……。彼氏のことなんですが」


 「彼氏のこと? 明美ちゃんにはラブラブな彼氏がいるって、さっき向こうで噂になってたけど。もしかして愛されすぎてキツいとか?」


 「いや、そういうわけではないんです」


 ……こともあろうに私は。


 上杉くんに関する愚痴を、出会ったばかりの葛城さんに語り始めてしまった。


 誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。


 今の仕事を始めてから、学生時代の女友達とはますます疎遠になっていった。


 やはり今の職業をあまり知られたくないと思うあまり、会うのを避けたり、会っても隠しごとがあるため会話がギクシャクしたりで、友達と過ごしても会話の範囲が限られ。


 気を遣いすぎて、自分自身ひどく疲れを感じたりすることも多く。


 友達との間柄が、徐々に疎遠になっていった。
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