魅惑への助走
 「じゃ……。キスさせてくれたら、家まで送ってあげる」


 「な……!」


 私は絶句した。


 勝手にこんな原野か山の中に連れて来ておいて、挙句「キスさせてくれたら送ってあげる」!?


 「そんなことする道理がありません。無理矢理拉致しておいて、何を図々しい」


 「獲物を誘拐して、最大限の身代金を絞り出すことができれば、大成功なんだよ」


 「馬鹿馬鹿しい。だったら私、ここで降りますよ」


 高速走行中はロックされていたドアが、今は開いている。


 降りてからのことは追々考えるとして、今は逃げたほうが得策のような気がした。


 「こんな所で降りたら、大変なことになるよ」


 ドアに触れた手を掴み、そのまま覆い被さるように。


 「きちんと家まで送り届けてあげるから……おとなしくキスさせなさい」


 唇を重ねられた。


 信号が赤で、交差する車線の車は青信号ですでに走り去ってしまい周囲は完全に無人となった。


 それをいいことに……強引なキスはなかなか終わらない。
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