魅惑への助走
 「離して……」


 エンジン音も静かな車内に、私の声がむなしく響く。


 「いやだ」


 葛城さんは私の意向など無視。


 私の意向……?


 「週末の間ずっと、会いたくてたまらなかったんだ」


 「うそ」


 「嘘なもんか。だからこうやって無理矢理ここまで連れ去ってきたんだ」


 周囲は街灯もろくにない田舎道で、信号の灯りにより車内は若干照らされている。


 ぼんやりと薄暗い車内ではあるものの、すでに暗闇に目が慣れてしまっているため、葛城さんが私に微笑みかけているのがはっきりと見える。


 それにより同意を確認したかのように、再び唇を奪われる。


 「信号、もう青……」


 信号が青に変わった今でもなお、キスは続けられている。


 「どうせ誰も来ないし、構わないよ」


 確かに後ろから現れる車もなく、辺りは停車中のこの車だけ。


 青信号の交差点で停車したまま、しばらくの間キスに夢中になっていた。


 私は逃れるでも身をよじるでもなく、そのままキスを受け入れ続けた。
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