魅惑への助走
 「榊原先輩」


 今日出会ったばかりの人に、いきなり質問しにくかったので。


 まずは先輩に尋ねてみることにした。


 「何? あ、好きなもの注文していいよ」


 先輩はさっとメニュー表を手渡してくれたけど、


 「食べ物は大丈夫です。その……、ビデオのことであれこれ聞きたいことが」


 「私で解ることなら、なんでも」


 「えっと……。さっき撮影していたのって、アダルトビデオとして発売されるんですよね」


 「そうだけど。何言ってんの今さら」


 先輩は苦笑した。


 「ああいうビデオって、延々とエッチシーンが続くものだと思い込んでいました」


 少なくとも……昔ラブホテルで無理矢理見せられたAVは、そのような内容だった。


 ストーリーも物語性も全くない、ただ男女が結合しているだけ。


 「一般的にはAVってそういうものだし、そのほうが男性ウケがいいのも事実。だけど私たちはそことは異なる層の顧客獲得を目指してるんだよね」


 「先ほど話していた、女性向けAVってやつですか」
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