魅惑への助走
 「そんな感じかな。例えば少年漫画の週刊誌だって、女の子でも読んだりするし、女の子に人気の高い作品だってあるでしょ」


 「はい」


 「その需要を、私たちは狙っていこうとしてるんだよね。飽和状態の市場ではなく、あらたな市場確保のために」


 「ばらちゃん。それ以上は企業秘密」


 松平監督が、先輩の言葉を遮る。


 榊原先輩はこの場では、「さかきばら」の下の二文字に由来すると思うのだけど、「ばらちゃん」と呼ばれていた。


 「あ、すみません。つい……」


 先輩は慌てて言葉を飲み込んだ。


 企業秘密?


 「ま、武田さんは程なく私たちのチームに加わってくれると信じてるから。別に聞かれてもいいんだけどね」


 「えっ」


 「とりあえず武田さん、今度一作書いてみて」


 監督が笑顔で告げる。


 「先ほども申しましたが、無理です私。普通の恋愛小説しか書いたことないですし、官能系はちょっと」


 「その恋愛小説には、性描写はないの?」


 「たまに……と申しますか、時折」


 「それで十分よ。そういうシナリオがぴったりなの。これから私たちが作ろうとしているのは」
< 48 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop