魅惑への助走
 上杉くんが最悪な状況を脱するまでは、やはりそばにいてあげるべきなのかと迷いが生じる。


 とはいえ離れていく心はもう否定できない……。


 「義理や同情で我慢する必要はないよ」


 私の心の中を見透かしたように、葛城さんが優しく頭を撫でる。


 「いずれにしても今のままでは、互いにだめになるのは目に見えてるんだし。とりあえず奴の試験勉強のために距離を置こうってことで、段階を経ればいいんじゃないのかな」


 「それだと……、上杉くんに期待を残してしまいませんか」


 「俺たちにとって不都合な展開になったら、また考えよう。……今日は遅いから、そろそろ寝ようか」


 「はい。……葛城さんは、明日も仕事ですか」


 明日は日曜日。


 私は休みだけど、忙しい葛城さんはきっと明日も。


 「昼までは、ゆっくりできるから」


 「よかった……」


 思わず抱きついていた。


 「俺は喜ばしいんだけど。部屋にあいつを一人残しておいていいの?」


 「いいんです。……顔を合わせにくいし」


 「時間が経てば経つほど、ますます帰りにくくなるんじゃない?」


 「だったら……。私をここに住まわせてください」
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