魅惑への助走
 ……。


 「……もう行くの?」


 「うん。今日は午後から、展示会に招待されていてね……。名残惜しいけど」


 昼近くまでベッドの中で甘い時間を過ごした。


 これまではホテルでの密会ばかりで、常に時間を気にしながら抱き合っていてばかり。


 いつも名残惜しさを抱え、帰路についてばかりだった。


 この日は葛城さんのマンションで、朝を迎えても気にすることなく……。


 ただし昼過ぎから予定がある葛城さんは、私が目覚めた時はすでにスーツに着替えている最中だった。


 「送っていくよ」


 「だめ、行かないで」


 まだベッドで裸のままの私は、スーツ姿の葛城さんにまとわりつきながらわがままを言った。


 「ね、もう一回……」


 あんなに抱かれたのに、温もりを感じているとまた体の奥が疼き始め……求めてしまう。


 「可愛い」


 頭を撫でながら、葛城さんは微笑んでくれるけど、


 「続きはまた今度……ね」


 「……」


 わがままは言えない。


 社会的に地位のある人が、仕事や役目もそっちのけで女とこんなことばかりしていては、たちまち信用を失ってしまう。
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