魅惑への助走
 「私たち、当面距離を置きましょう」


 私のほうから、ようやく口にした。


 「側にいることで、上杉くんの支えになりたかった。でも今のままだったら……、私も上杉くんもきっとだめになる。まずは上杉くんの将来を優先させてほしい」


 なかなか打ち明けられないことをようやく言葉にできたら、その後の言葉は次々と形にすることができた。


 「今みたいにお互い依存を続け、先のことも何も考えないで日々過ごしていたら、生活が破綻するのは時間の問題。その時になって互いに責め合い、憎み合って別れていくよりは……。早めに距離を置いて、原点に返ったほうがいいと思うし、」


 「距離を置くって、つまり一時的な別居ってこと?」


 上杉くんが私の言葉を遮った。


 「俺がもう一度、司法試験の勉強に励むための期限付きの別居で、いずれはよりを戻すってこと? それともこのままなし崩しに別れるってこと?」


 「それは、」


 「下手に期待させるくらいなら、はっきり言ってくれていいんだよ。もう俺と元に戻る気はないんだってことを」
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