魅惑への助走
 しばらくの間、二人きりのディナーを楽しんだ。


 ワインやクリスマスそのもののうんちくや、ここ最近のテレビニュースなど。


 近頃すっかり失われていた穏かな時間を、私たちは取り戻していた。


 今になって……。


 食事を食べ終えてもテーブルに留まり、ワインを飲みながらテレビを見て、あれこれ語り合っていた。


 常に笑顔で。


 間近に迫った別れのつらさに対し口火を切るのが忍びなくて、二人とも結論から逃れるように、楽しい時間に浸っていた。


 「見てこれ。可愛すぎる」


 その時見ていたのは動物番組で、世界の可愛い動物や動物の面白い仕草が特集されていた。


 たまたま流れてきたのは、14匹の猫たちがテーブルに群がる姿。


 それはまるで、


 「この構図、まるで猫版『最後の晩餐』っぽくない?」


 「ほんとだ」


 ボス猫を中心に、テーブル上にあるキャットフードを狙う総勢14匹の猫たち。


 それがちょうど、レオナルド・ダ・ヴィンチのかの有名な『最後の晩餐』の絵の構図にとてもよく似ていて。


 最後の晩餐。


 そう口走って私ははっとした。


 上杉くんを見ると、そちらもまた同様。


 ……今日は私たちの、最後のディナー。


 互いに決断の時が来たのだと悟った。
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