魅惑への助走
 「ごめんなさい。私、ほんとにとんでもないことを……」


 「明美が悪いんじゃない。明美をそこまで追い込んだのは、俺の責任でもあるんだから」


 「ほんとごめん……。上杉くんがいつもそばにいてくれるという幸せを当然のこととみなし、ありがたみをすっかり忘れていた……」


 「それは俺も同じだよ。明美にすっかり甘えて、依存しきっていた」


 上杉くんは優しく抱きしめながら、私の頭を撫で続けてくれていた。


 「こんなに暖かい帰る場所があったのに、それを物足りなく感じるなんて私は馬鹿だった」


 私は自らの裏切り行為を悔いながら、その胸で泣き続けていた。


 このままお互いに悔い改め、新たな未来へと向かって歩き出す結末すら脳裏をよぎったほど。


 しかし上杉くんの次の一言が、事態を意外な方向へと進めていくこととなった。


 「明美を不安にさせるのは俺のせいとはいえ、明美が夜な夜ないろんな男に抱かれる姿を想像しただけで、気が狂いそうになった」


 いろんな男?


 「俺の依存が原因で、生活がそこまで先細りになってるとは頭が回らなかった。俺のせいで明美がお金のため、たくさんの男に体を開くようになったことを知って、ようやく事の重大さに気がついて」


 たくさんの男?


 どうも話が飛躍しているような。
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