魅惑への助走
 「今でも明美を好きでたまらない気持ちには、少しも変わりはない。でも俺との生活を保つために、明美にあんなことをさせていたなんて……。知らなかったとはいえ悔やんでも悔やみきれない」


 先ほどからの上杉くんの言葉に、若干の違和感を覚え始めていた。


 もしかして何か、勘違いをしているような?


 「そこまで追いつめられているなら、もっと早く俺に打ち明けてほしかった。好きだから一緒にいるだけで満足してたけど、そんな大変なことになっていると知ったら、いくら俺でも明美を救うために身を引くことができていたかもしれない。こんなことになる前に」


 「ちょっと、上杉くん」


 急に抱きしめる腕の力が強まって、私は息を飲んだ。


 「明美……世界で一番愛してる。だからもう俺のために、いろんな男と寝るのはやめてほしい。そんなことを明美にさせるくらいなら、俺は喜んでこの部屋を出て行くから」


 やっぱりこの台詞、何かおかしい。


 上杉くんは何か誤解をしているようだ。
< 490 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop