魅惑への助走
 「ていうか、なんで俺がAV男優なんかになんなくちゃいけないの? 飛躍しすぎじゃない?」


 急に上杉くんは、反撃に出てきた。


 「第一ああいうのって、女遊びが大好きな絶倫男じゃないと無理でしょ。そういう輩が趣味と実益を兼ねて……」


 さすがにカチンときた。


 「そんな甘いもんじゃないんだけど!」


 つい語気を荒げてしまう。


 AVに出演する女優も男優も、いい作品を撮るために日々の生活では案外自らを律していることは、スタッフである私も重々承知。


 なのにAVに出ているのは性的に乱脈な人たちのように言われて、ちょっと悔しかった。


 「何も知らないくせに、上から目線で偉そうに言わないでよ! 趣味の延長線上のような軽いノリで出演できるとでも? だったら自分がなってみればいいいでしょ?」


 思わず拳を握り、テーブルをドン!と叩いていた。


 沈黙に包まれた二人の真ん中では、テレビからクリスマスソングが空しく鳴り響いていた。
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