魅惑への助走
 「愛を交わすことっておぞましいことなの? 生涯不犯の戦国大名とかに言われるならまだしも、上杉くんには言われたくないな!」


 「自分の彼女が他の男としている映像、実に素晴らしいと感動しながら見る奴、どこにいるんだよ!」


 いつもは温厚な上杉くんが、別人のような形相で怒っている。


 「AV女優だってね、普通に彼氏がいたりやがて結婚する子だっているんだから! 確かに特別な職業であることは否めないけれど、自分は見下せるような立場? 職業に上下はないって、いつも偉そうに語ってるくせに」


 「……上下の差はなくても、卑しい職業は確かに存在する。第一AV女優なんて、風俗より楽に稼げそうだとか安易な動機で走る女もいれば、性交渉中毒者の受け皿となっているケースも」


 「何も分かってないくせに、偉そうなこと言わないでよ! だったらAV男優やってみる? 私に説教するなら自分がAV男優になってみて、その経験を踏まえた上ではじめて私に説教してよ!」


 「俺がAV男優?」


 鼻で笑われた。


 「無理言うなよ。俺が男優になるよりも、弁護士のほうがまだよっぽど可能性がありそうだ」


 上から目線で告げる。


 ……私たちはもう、ほとんど終わっていた。
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