魅惑への助走
 「知り合いのミュージシャンの話したよね。インディーズ時代の圧倒的人気を引っ下げて、メジャーに殴り込みをしたヴィジュアル系バンド」


 「はい」


 葛城さんは芸能界にも友人知人が多かった。


 その中の一人が、人気ミュージシャン。


 典型的なヴィジュアル系バンドで、インディーズではその幻想的なコスチュームやサウンドで、信者と呼んでも過言ではないファンがたくさんついていた。


 CDのアルバムもインディーズでは特筆すべきもので、満を持してメジャーデビュー。


 大手レコード会社に所属し、大物プロデューサーを擁し、デビュー前からブレイクが約束されるような状況だった。


 デビュー曲からすでに大口タイアップ付き。


 大々的なメジャーデビューと同時に、大ヒットを果たした。


 その後もタイアップに恵まれ、続々ヒットを飛ばしているが……。


 「でもね、あいつ。なんか憂鬱そうな表情をしてたんだ」


 なぜかというと。


 インディーズの頃と同じように、ヴォーカルでありバンドのリーダーである彼が作詞作曲を担当していた。


 ただし何もかも好きなようにすることができたインディーズの頃とは異なり、プロデューサーの指示には従わざるを得ず、CMなどのクライアントの意向は重要視されるし、ファンの声にも左右される。


 何にも増して、売り上げ枚数やランキングに気を遣わなければならない。
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