魅惑への助走
 「……うーん。難しい問題だね」


 その日の夕食。


 葛城さんが早く帰ってきたので、一緒に食事に出かけることができた。


 メインディッシュを一通り食べ終えて、食後の紅茶を待つ間、私は思うところをどっと葛城さんに打ち明けた。


 小説執筆に関しては葛城さんは門外漢だし、自分のことは自分で片付けようと思っていたし、それ以上に忙しい葛城さんを煩わすことなどしたくはなかった。


 でも最近ずっともやもやしている自分がいて、何か道標となるヒントがほしくて、葛城さんに話してみた。


 私が受賞して、携帯小説家としてデビューできたのも、葛城さんの力添えがあったからなのは事実。


 私の実力ゆえではない、水面下の力が働いたからこその今日の私の成功であるのは重々承知。


 本を出してもらえるだけで、感謝しなければならない。


 まさにその通りであるし、これ以上を望むのはおこがましいと十分に理解はしているのだけど……。
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