魅惑への助走
 この夜は葛城さんが出張で不在なのをいいことに、繰り返し何度もDVDを見てしまった。


 ストーリーで見落としてしまった伏線箇所をチェックした後、佐藤剣身の演技を細かく鑑賞。


 撮影前のメイクなどを経て、画面の中の佐藤剣身は上杉くんとは雰囲気や印象がここまで異なるものかと重ね重ね驚かされつつ。


 演技経験ゼロとは思えないくらいの、ナチュラルな立ち振る舞い。


 そして……濡れ場。


 AV男優としてデビューする以前、女性経験は私とだけだったとは思えないような、落ち着いた仕草。


 相手役のベテラン女優たちにリードされつつ、男優としてのノウハウを実地経験として身に付けていっている。


 それも短期間でかなり安定してきている。


 経験が浅いと性欲をコントロールできず、撮影前にモタモタしてしまい周囲に迷惑をかけることも少なくなく、それが撮影に際して焦りを生じさせたりもする。


 ところが佐藤剣身は、男優としての未熟さを微塵も感じさせず。


 ずっと前から活躍している男優のように、作品内で自然体で役になりきっている。


 それはまるで、佐藤剣身の日常を画面の中に切り取っただけのよう。
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