魅惑への助走
 「これで無事に撮影終了だけど?」


 社長が述べる。


 「ちょっと呆気なくないですか」


 「呆気ない?」


 「はい……。ヴァンパイアが朝日を浴びて灰になって、これから主人公はどうなるのでしょう」


 「うーん。この先は視聴者さんたちの判断に任せるって事で、曖昧なラストにしたんだけどね」


 脚本を執筆した榊原先輩が答えた。


 「あれだったらどう考えても、主人公は今後誰と体を重ねても満足できず、それにより恋愛も毎回上手くいかず、不幸な恋愛体験を積み重ねていくことが暗示されてるような気がします」


 「そっか……。ヴァンパイアとの邂逅によって、主人公は心も体も満たされる愛を知った……ってことでハッピーエンドのつもりだったんだけど。明美ちゃんはバッドエンドと判断しちゃったかな?」


 「はい……」


 「明美ちゃんがそう思うってことは、視聴者の中の何割かもそう判断する可能性があるってことだよね。どうしよっかな……」


 榊原先輩は思案を始めた。


 SWEET LOVEのコンセプトとしては、作品のテイストにはハッピーなもののみならず、ちょっと切ない系もありとしているけれど、後味の悪いものや気が滅入るバッドエンドはNGと定めている。


 たった今撮影を終えたこの作品、このままではバッドエンドとみなされてしまう可能性があることが判明したのだ。
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