魅惑への助走
 「作品をこれ以上長くするわけにはいかないから、エンドロールの部分にその後の主人公のワンシーンを収録したらどうでしょう」


 言われた撮影を淡々とこなしていた佐藤剣身が、突然発言した。


 エンドロールとは作品の最後に、出演者やスタッフの名前を流す部分。


 通常は音楽を付けて。


 (音楽は榊原先輩の知人である音大出身の人に、個人的に依頼している)


 エンドロールに、主人公のその後を流すことにした。


 映像だけで、台詞なしの状態で、視聴者に伝わるようにしなければならない。


 「主人公が幸せな恋愛に巡り会えたことを示すには」


 「お見合い相手が、ヴァンパイアに瓜二つだったというのはどうでしょう」


 ふと思い付いた。


 すると私のとっさの思い付きが即座に採用され、急遽お見合いのシーンを追加で撮影することとなった。


 「スーツある!?」


 「はい! 衣装ケース内に!」


 撮影に使われる可能性のある衣装類一式は、あらかじめスタジオ脇の衣装ケースに保管されている。


 「主人公は和服? 着物は?」


 社長が次々に指示を飛ばす。


 「さすがに和服までは準備されてないですね……」


 榊原先輩が衣装ケース内を確認する。
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