魅惑への助走
***


 ある夏の日の夕方。


 日曜日で仕事はお休みだったけど、特に予定もなく。


 最高気温36度の暑さ、外を出歩く気にはなれず。


 部屋のエアコンをフル稼働させるより、電気代節約のために近場の漫画喫茶に来ていた。


 クーポンを使えば格安料金で、映像も書籍も見放題。


 エアコンの十分に効いた部屋で、ドリンクも飲み放題。


 休みの一日、安上がりであれこれ情報収集できて満足。


 夕方までそこにいて、そろそろ帰ることにして清算。


 外に出るとまだまだ暑い。


 もうすぐ夕方だというのに、まだ30度を下っていない。


 (今晩も熱帯夜かな……)


 うんざりだけど、寒いよりはましだと思い歩き出した。


 夕食はどうしようかなどと、ふと考えつつ。


 「あ、ごめんなさい」


 考えごとをしていたせいか、逆側から歩いてきた男の人にぶつかってしまった。


 手が滑り私は、バッグを落としてしまう。


 「すみません、これ」


 男の人は落ちたバッグを拾ってくれた。


 その人と目が合う。


 「あれ? あなたは……」


 どこかで会ったことがある。


 えーと……誰だっけ?


 「もしかして武田さん?」


 その人のほうが先に、私に気づいたみたい。


 「久しぶり。高校三年の時同じクラスだった、上杉(うえすぎ)」


 「あっ、上杉くん!?」


 ようやく思い出した。
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