魅惑への助走
 帰省もろくにしなかった私は、高校までの友人とは徐々に疎遠になっていき、交流もほとんどなくなっていって。


 高校時代のことなど、思い出す機会もあまりなくなっていた。


 その時その時は、それなりに一生懸命生きていたはずなのに……。


 「久しぶり」


 「元気だった?」


 過去の回想を終え、上杉くんとインターネットカフェの前で立ち話。


 「これからカフェ行くの?」


 「いや。今出てきたところ」


 「上杉くんもここに出入りしてるの?」


 「たまに勉強の息抜きにね」


 勉強?


 大学院に進んだのかな。


 「最近地元に帰った? 誰かと連絡取ってる?」


 矢継ぎ早に上杉くんに質問をくり返す。


 忘れていた高校時代の思い出を取り戻したような気がして、何となく嬉しかったのもある。


 話がなかなか止まなかったので、


 「ねえ、これから時間ある? よかったら食事でも行かない?」


 じゃあね、で店の前で別れても何の不思議もなかった。


 なのに私は、上杉くんを夕食に誘っていた。


 久しぶりの出会いで、懐かしかったのもある。


 一人での食事が少し、寂しかったのもある……。
< 87 / 679 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop