公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
ジェイル様からの贈り物を落としそうになり、慌ててしまう。
「本当にクレアかい? よく、顔を見せとくれ」
私の頬を両手で挟み、凝然として見つめてくるドリスの目は潤んでいた。
「ドリス、ただいま。長いこと留守にしてごめんなさい。私の部屋、まだあるかしら?」
「馬鹿、なに言ってんの。ここはクレアの家だろ。部屋はそのままにしてあるさ。あんな手紙一枚残していなくなるなんて、ひどいじゃないか。どんな危ないことしてるのかって、あたしは気が気じゃなかったよ」
遠く離れていても、私のことを案じてくれているのは分かっていた。
ドリスは行き場のない十二歳の私を雇ってくれた恩人で、もうひとりの母のような存在。
十カ月ほど前、手紙だけを残してなにも告げずに旅立ったのは、止められると分かっていたからだ。
母親なら、子供が危険を犯そうとすれば止めるもの。
ドリスが私を娘のように思ってくれているのは知っている。