公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

オズワルドさんともここで別れようと思ったのに、ジェイル様の忠実な近侍は、私の荷物を持ってついてきて、宿屋の裏庭に繋がる木戸に手をかけるまで、きっちりと送り届けてくれた。


「お世話になりました。帰りの道中、お気をつけて」


そう挨拶すれば、「ジェイル様に伝言は?」と問いかけられた。


伝言と言われても、この胸に溢れそうな想いは、とてもひと言では言い表すことができない。

「ありません」と答えて唇を引き結んだら、「そうですか」と返事をしたオズワルドさんにアッサリと背を向けられた。

彼がそういう人だと分かっていても、あまりにも素っ気ない別れ方に、思わず「待ってください」と引き止めてしまう。

すると顔だけ振り向いた彼は、珍しく口元に笑みを浮かべて言った。


「言いたいことがありすぎて、言葉にならないのでしたら、よく考えて整理し、まとめておいてください。それではこれで」


まとめておいたって、伝える日などこないのに、なにを言っているのかしら……。


木戸から手を離し、二、三歩、前に出る。

深緑色の上着の後ろ姿が道の角を曲がって消えるまでを見送っていたら、後ろに「クレアかい!?」という懐かしい大きな声がした。


振り向くと同時に、木戸が壊れそうな勢いで開けられて、ドリスが両手を広げて飛びついてきた。

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