公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~

声の方に振り向くも、男たちの陰に隠れてしまっているのか、ドリスの姿は確認できない。

危険だと止められそうに思ったから、ドリスに直接別れを告げなかった。

私が貴族の出自であることも含め、すべての事情を書いた手紙を置いてきたので、それを読んでドリスは駆けつけてくれたのだろう。


手紙の最後には、こう書いた。

【きっとこの町を変えるから、待っていて】


ドリスには心から感謝している。

十二歳で孤児院を出てから、衣食住に困らず生きてこられたのは、彼女のおかげ。


群衆の中の見えない彼女に向けて、「待っていて」と手紙と同じ言葉を呟いた。

それから西の丘に視線を移す。


孤児院の建物の端が、ここからでも確認できた。

丘のてっぺん付近の小さな点々は、墓石群。

メアリーの埋葬に立ち会えなかったことは悔やまれるけれど、もう後戻りはできない。

最後に見たメアリーの笑顔を思い出し、他の子供たちの無邪気な顔も次々と脳裏に蘇ってきた。


馬車の前で思わず足を止めた私に、「早く乗れ」と、公爵が背中を軽く押す。

促されて立派な馬車に乗り込んだら、親しき人と別れる一片の寂しさを、完全に封じ込めた。


私の覚悟は揺るぎない。

必ずやゴラスに変革をもたらして見せるから、みんな、楽しみに待っていて……。


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