無意確認生命体

その後、私が可能な限りの全力を尽くし、美智の家まで行ってみると――。



「やー! ホント、ひとりじゃ死んじゃうところだったよ! あたしか、この子、どっちが先だったかってかんじ。――あ、この子、あたしの従姉妹の姉さんの子供で、有樹ちゃんってゆうんだけどね。可愛いでしょ? まだ生まれて10ヶ月なんだよ~。なんかねぇ、従姉妹夫婦とあたしの両親で、一泊二日の旅行に行くってんで、その間この子頼めないかって言われてさぁ。あたしってば、大して何も考えないで安請け合いしちゃったのよー。で、気付いたら、あたしって育児の経験も知識もなんもないじゃん! 時すでに遅し。母や姉さんたちは旅立った後であった! あたしらふたり、いきなし生命の危機に瀕しちゃったわけよ。しからば、あたしも助っ人を頼らざるを得ない。それでしぶちん、アンタに電話したってワケ。いや、早かったねぇ。助かるよ。あ、姉さんたち帰って来るの、明日の昼頃って言ってたから、もちろんアンタも泊まりだよ? よろしくネ~、マ・マ♪」



――と赤ん坊を抱いた美智に出迎えられたのだった。


私は開いた口が塞がらず、しばらく放心した後、沸き上がる美智への殺意を抑えるのに難儀した。

しかし、美智の腕の中で笑う有樹ちゃんの無垢な顔を見せつけられると、それもすぐにしぼんでしまったのであった。

……私は、電話で騙される宿命でも課せられているんだろうか。

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