海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
思えば、あの雨の日からずっとそうだった気がする。


相葉先生の気持ちが掴めたかと思うと、


するりと指の間からすり抜けてしまったような感じがしていた。


先生の言葉と態度はちくはぐで、本当の気持ちがいつも見えなかった。



今は、自分の本心さえ見えなくなってしまった。


色んな事の積み重ねで、今の私がどうするべきかも、どうしたいのかも、何もかもが分からなくなってしまった。



いつもの私だったら明日には謝って、ギクシャクしないように戻ろうとするだろう。


「先生!」


そうやって笑いかけられるように、戻りたいと願うんだ。


だけど、


『このまま相葉先生から離れるべきなのかもしれない。』


そんな気持ちが芽生え始めていた。




「もう分かんないよ…。」


ぎゅっと固く目を瞑ったのとほぼ同時に、


またバレンタインデーの夜に見た光景と、


今日の相葉先生の表情が浮かんだ。


今まで見た事もない、悲しげな表情だった。




「さくー、ごはんはー!?」


階段の下から、母の私を呼ぶ声が聞こえる。


一体、どれだけの時間をこの状態で過ごしていたのだろうか。



「ごめん、いらない。」


申し訳ないと思いながら、ドア越しでも母に聞こえる位の大きな声で返事をした。


バタン、とリビングのドアが閉まる音が聞こえたのは、母が戻っていったからだろう。


私の返事を聞いて、


『どこかで食べてきたのかもしれない。』


と、思ったのかもしれない。



私はおもむろにベッドから起き上がると、制服を脱いでハンガーにかけた。


傍に置いてあった部屋着に着替えると、冷たいベッドに潜り込む。


ひんやりとしたシーツの冷たさが、私を冷静にさせてくれる気がした。



私は不安定に揺れ動く自分の気持ちに悶々としながら、現実から逃げるように眠りについた。
< 222 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop