海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
その直後、


「なんであの子、あそこにいるわけ?」

「なんであの子だけワープロ持参なの?」


小声でも十分に聞こえる声の大きさで、私に対する先輩達の不満めいたヒソヒソ声が聞こえてくる。


途端に、

『失敗したかも…。』

そう思った。


“絶対合格したい”というやる気が、完全に裏目に出てしまったような気がした。


相葉先生を想っている先輩達の私に対する妬みや、なぜ下級生と自分達が同じ検定を受けるのかという、先輩としてのプライド…。


色んな理由はあるだろうけれど、間違いなく、一部の人の反感を買った事は間違いなかった。


私は居心地の悪さを感じながら、素知らぬふりをしてワープロを立ち上げ、入力練習をし始めた。


そうでもしなきゃ、とてもこの空気の中に居続ける事が出来そうになかった。


そしてそれから10分程経った頃、相葉先生が準備室から出てきた。


私の後ろを通り過ぎて教壇の真ん中に立つと、


「ではそろそろ、検定試験を始めます。」


そう、パソコン教室にいる全員に声をかけた。


今回受けるワープロ検定3級の試験内容は、10分間の文字入力と、20分間でのビジネス文書作成。合計30分間の試験だった。


そして相葉先生が検定試験に関する説明をし終わると、


「よーい、始め!」

と、試験開始の合図が出た。


パソコン教室には一斉にキーボードを叩く音が鳴り響いた。


緊張しやすい人は、この音を聞いてるだけでも焦ってしまう程なのだ。


『いつも通りにやれば、きっと合格できる。』


私は心の中で何度もそう繰り返した。


『どんなに目の前に先輩達がいようとも、その先輩達だって必死に試験を受けているのだから、お互いにそれどころじゃないはず。とにかくいつも通りにやろう。』


そう思い直して集中していく内に、最初のような緊張は自然と解れていた。
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