海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
もう、どんなに頑張っても笑顔を作る事が出来なくて、


『私がすぐ近くにいる事を、先生が気付きませんように。』


そう、心から願っていた。




『これ以上大泣きする前に電話を切るべきだ。』


高まった感情の中、私はそう思っていた。


これでお別れなのだと、最後の覚悟を決めて―…



「じゃあ先生、お元気で…。」



最後は絶対に明るくお別れしようと決めてた分、無理にでも明るく振舞う。


『私の事を忘れないで』


そんな願い事を心の中でそっと呟いた。



「ん…河原も元気で…。」

「はい…。」


しゃくり上げそうになるのをぐっと堪えて、



「…じゃ、失礼します。さようなら…。」


そう言って、ギュッと目を瞑った。



「さようなら…。」


相葉先生の最後の言葉を聞いて受話器を置いた途端、私はその場にうずくまるように泣き崩れた。


声を上げて泣きながら、私は願っていた。




『今だけは、どうかこのまま泣かせて下さい。


そして、ここに私がいる事を相葉先生が気付きませんように。


気付かないで下さい。


今だけは私の事を隠して下さい、


どうかお願いします、神様…。』



電話ボックスの中でうずくまって泣く姿が、車に隠れて相葉先生からは見えなくなっている事を願いながら、


きちんと祝福の言葉を言えた自分を、よくやったと、褒めてあげたかった。


深い悲しみが心の中にあるけれど、それでも、これで良かったのだと―…




ようやく落ち着きを取り戻せた頃、私は電話ボックスから足早に飛び出し、アパートの方を見ないように車に乗り込むとすぐに車を発進させた。


決して振り返らなかった。


そう、心に決めていたから―…




だけど…



“結婚おめでとう。”


“幸せになってね…。”



相葉先生が結婚するという事実を受け止め、祝福の言葉を伝えるという事が、私の想像以上に無理をする事だったという事を私は知らなくて…。


自分でも全然気付かない内に


心を壊してしまった…。
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