海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「学生は大変なんだよ。」

私がぶーっと頬を膨らませると、


「そうだよなぁ。」

と、先生はクスクス笑いながら相槌を打つ。


きっと他の先生だったら、


「大人になったら…」

「社会に出たら…」


こんな出だしから始まるような話をされるに決まっているけれど、相葉先生はゴチャゴチャとお説教なんてしない先生だった。


もしかしたら相葉先生は優しいを通り越して、甘いのかもしれないけれど、生徒から人気があるのは、こうして大目に見てくれる部分があるからなのかもしれない。


「瑞穂たちが待ってるので帰ります。相葉先生さようなら。本当にありがとうございました!」


私が最後にもう一度、一礼すると


「おぅ!気をつけてな。」

と、相葉先生は片手を上げて笑顔で答えてくれた。


相葉先生の笑顔が、私の目と記憶に焼きついた気がした。



『瑞穂と梢、待ちくたびれているかも…。』


そんな風に思いながら、パソコン教室を出て瑞穂と梢が待つロビーへと続く廊下を進み、一つ目の角を曲がった時だった。



「またアイツ、相葉さんのとこに行ったんだよ。」


私はつくづく“タイミングが悪い”と思う。


二人の先輩が向かい側から歩いてきて、私を見つけるなりコソコソと何かを言っているのだ。


『あぁ、またか…。』


私は敢えて目を合わさないようにすれ違おうとしたのだけれど、何故かその時はいつもと違った。


「ちょっと。」


すれ違ってすぐに背後から声をかけられ、立ち止まって振り返ると、先輩たちがゆっくりと私に近付いてきた。


「…なんでしょう?」


本当はわざわざ聞かなくても、

『相葉先生の事だろう』

という、話しの予想はついていた。
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